電磁波シールドの方法と適切な材料

我々の身の回りにはあらゆる電磁波が飛び交っている。Wi-fiやBluetoothなど多くの機器が無線で通信するようになり、オフィスも家庭も電子機器や電化製品で満ち溢れている。 今後は遠隔操作が必要なロボットやドローンの普及により、必要な電磁波は受け入れて不要な電磁波はシールドするという電磁両立性(EMC対策)がますます重要になってくる。 また、機器同士のノイズ対策に加え、電磁波過敏症等、人体への影響を心配する人たちも実際に多く存在する。
電磁波について詳細に理解するには電磁気学や物理学の専門分野にまで及んでしまうが、このページでは電磁波シールドについて、一般の方でも分かりやすいようにまとめた。 電磁波シールドがやっかいなのはやはり目に見えないから実感しにくく、何らかの不調の原因が電磁波の影響であるかどうかも含めて、解決策が多岐にわたる点に尽きると言える。 電磁波の基礎から電磁波シールドの原理やシールド方法、部品・材料まで調査したので、電磁波シールドに困っている方にとって何らかのヒントや参考になれば幸いだ。
目次
  1. 1. 電磁波シールドの必要性
    1. 1-1. 機器の誤作動問題
    2. 1-2. ワイヤレス機器の急増による通信障害
    3. 1-3. 情報漏洩対策(テンペスト)
    4. 1-4. 健康問題
  1. 2. 電磁波の基礎知識
    1. 2-1. 電磁波とは
    2. 2-2. 電磁波の種類
    3. 2-3. 電磁波の単位
  1. 3. 電磁波シールドの原理
    1. 3-1. シールド可能な周波数について
    2. 3-2. 反射損失
    3. 3-3. 吸収損失
    4. 3-4. 多重反射損失
    5. 3-5. 電磁波シールド性能の表し方
    6. 3-6. 電磁波シールド材の性能試験方法
  1. 4. 電子機器の電磁波シールド
    1. 4-1. 回路設計
    2. 4-2. ノイズ対策部品
    3. 4-3. 筐体の電磁波シールド
  1. 5. 建築物の電磁波シールド
    1. 5-1. 簡易シールド
    2. 5-2. 一般シールド
    3. 5-3. 高性能シールド
    4. 5-4. 電磁波シールド建材取り扱い企業
  1. 6. 人体の電磁波シールド
    1. 6-1. 電磁波防止エプロン
    2. 6-2. 電磁波シールド衣類
    3. 6-3. 就寝時の電磁波シールド

1.電磁波シールドの必要性

電気が流れる場所では必ず何らかの電磁波は発生する。また、携帯電話やスマートフォンのように電波を利用した多くの無線通信機器が存在し、我々の回りは電磁波(電波)で満ち溢れている。 その中でどうしても本来の目的とは違う不要な電磁波が存在する。そんな不要電磁波をシールドする必要性としては以下の4点が考えられる。

1-1. 機器の誤作動問題

一般の人が生活の中で機器の誤作動で困っている人はあまりいないだろう。それは昨今のメーカーによる「電磁波を外に出さない」「外部からの電磁波の影響を受けない」というEMC対策技術が向上したからだ。また、コンピュータのサーバールームや電算室などは建築段階からの電磁シールドノウハウを持った建設業者が施工をする。しかし、工場や医療関係や多くの電子機器を使うオフィス等では新に導入した電子機器と既存の電子機器との間で電磁波ノイズの干渉が出てしまったり、外部からの電動機や工事器械、溶接機、違法CB無線等の影響を受けたりするケースもある。その場合は何らかの電磁波シールドの対策が必要になる。

1-2. ワイヤレス機器の急増による通信障害

今やなんでもワイヤレスの時代だ。パソコンやスマートフォンに接続できるワイヤレスデバイスで見た場合でもWi-fiやBluetoothを利用してキーボード、マウス、スピーカー、プリンター、モニター、ハードディスク等が無線で接続することが出来る。インターネット接続も有線LANは少なくなり、Wi-FiやLTE(4G)で通信する。それらの機器同士は近い周波数を使用しているために干渉を起こすケースがある。その他、電子レンジから漏れた電磁波やコードレス電話や室外から入ってきた電磁波と干渉して通信が切断されたり通信速度が悪化するケースもある。今後も無人化やドローンやRFIDを使った非接触カードの普及等、ワイヤレスの流れは止まることはなさそうだ。
さらに、次世代ネットワークの5G規格の導入は高速・大容量通信が可能になる反面、新たに割り当てられる周波数帯は3.7GHz帯、4.5GHz帯、28GHz帯と益々広域、且つ複雑に利用される周波数は思わぬところで通信障害となることも考えられる。

1-3. 情報漏洩対策(テンペスト)

パソコンから出る電磁波にはデータが乗っかっている。パソコン本体やパソコンに接続したモニターやキーボードのケーブルから出る微弱電磁波を受信、解析して情報やデータを盗む技術をテンペストという。実際に普及している技術ではないので過度に神経質になる必要は無いが、国家レベルの機密情報の漏洩対策や企業の顧客データが蓄積されたコンピュータ、金融機関のコンピュータなどは対策が必要だろう。 また、Wi-fi(無線LAN)を利用している場合は室外に漏れ出た電波から侵入される恐れもあるので、室外にまで電波が漏れないように部屋全体をシールドするケースもある。

1-4. 健康問題

通常の生活において人体が危険な電磁波にさらされることは無いとされている。総務省でも電波防護指針を策定し、基準値を超える場所には一般の人が立ち入ることができないように柵を設けている。一方、体調不良の原因は電磁波だとする電磁波過敏症といわれる人たちもいる。シックハウス症候群や化学物質過敏症とは違い、電磁波過敏症は医学的には疾病として認められておらず心気症の一種とする意見もある。 電磁波過敏症とまではいかなくても、電磁波にエネルギーが含まれているということを理解している人は予防的措置として、身の回りの電磁波環境を把握するために電磁波測定器を使ったり、何らかのシールド対策をとっている人たちも多い。

2.電磁波の基礎知識

2-1. 電磁波とは

電磁波とは電界(電場)と磁界(磁場)が相互に作用して組み合わさり、空間を伝達する波のことを言います。 電気が流れたり、電波の飛び交うところには、必ず何らかの電磁波が存在しています。
電磁波の電界と磁界の伝送イメージ
電磁波は波打ちながら光と同じスピード(約30万Km/秒)で進みます。
その波が1往復する間に進む距離を波長といい、波の中心の値と最大値の差を振幅と言います。
波長は距離なので単位はメートル(m)やセンチ(cm)やミリ(mm)などで表されます。振幅は強度なのでボルト(V)やアンペア(A)で表します。
波長と振幅

次に横軸を時間に変えた場合、波が1往復する時間を周期(サイクル)と言い、1秒間に往復する回数を周波数(単位:Hz)といいます。距離で考えると30万Km進む間の波の数ということになります。その1秒間で50回波打てば50Hz。1千回波打てば1KHz(1000Hz)、百万回波打てば1MHz(106Hz)、10億回波打てば1GHz(109Hz)となります。
周期説明図

下の図をご覧ください。
横軸を距離とすれば①の波は②の波より波長が長く、
横軸を時間とすれば①の波は②の波より周期が長い(周波数が低い)と言えます。
波長の違い

ここでは分かりやすいように平面図で説明しましたが、電磁波は進行方向に対して垂直な面内に電場と磁場が振動しており、電場と磁場の振動方向は互いに垂直になっています。 電磁波の単位面積あたりの強度は、電界強度はV/m(ボルト毎メートル)、磁界の磁気強度はG(ガウス)やmG(ミリガウス)で表すのが一般的です。

2-2. 電磁波の種類

電磁波は自然界にも存在します。太陽光線の紫外線や赤外線も電磁波の一種で、周波数が高くなるほどエネルギーは強くなります。下の図は電磁波を分類したものです。上にいくほど周波数は高く(波長は短く)、下にいくほど周波数は低く(波長は長く)なります。 電磁波は周波数の違いによって単位や呼び名や役割も大きく変わってきます。当然、周波数の違いによって利用するシールド材料やシールド手法も変わってきます。

周波数の違いによる電磁波の種類

電磁波の名称と周波数、それぞれの特徴と主な用途を一覧にまとめました。
通信電波の周波数が混雑しているのが分かります。携帯電話やスマートフォンの普及に加え、今後ますます増えるワイヤレス機器に周波数を割り当てる仕事をしているのが総務省です。
(右側が見えない場合はスクロールできます)
名称 周波数 特徴 主な用途


ガンマ(γ)線 3EHz~ 放射線のひとつ。高エネルギーで数センチの鉛も貫通する。
透過能力が高い。原爆の放射能にも含まれる。生体への影響は大きい。
科学観測機器
エックス(X)線 30PHz~3EHz 感光作用、イオン化作用。宇宙からも降り注いでいるが波長が短いため
オゾン層に吸収され地表にはほとんど届かない。
医療機器(X線、CTスキャナー)
紫外線 700THz~30PHz 科学作用、生理作用。弱い紫外線でも長時間皮膚をさらすと炎症を起こす。 殺菌灯、日焼けサロン
可視光線 30THz~700THz 目を刺激して視覚を発生させる。 光学機器
赤外線 3THz~30THz 原子やイオンを振動。ほとんが熱エネルギーに変換。 工業用(加熱・乾燥)、赤外線ヒーター
赤外線写真

サブミリ波 300GHz~3THz   光通信システム
ミリ波



30GHz~300GHz 空気中水分により減衰を受けやすい。大容量通信に適す。 衛星通信、各種レーザー
センチ波 3GHz~30GHz 鋭い指向性があり、他からの妨害を受けにくく、他への妨害に少ない 5G、携帯電話、スマホ、衛星放送、無線LAN
ブルートゥース、電子レンジ
極超短波 300MHz~3GHz アンテナが小さくてすむので、移動体通信に使われる 携帯電話、スマホ、テレビ、タクシー無線
航空機電話
超短波 30MHz~300MHz 電波の直進性が目立ってくる。 航空管制通信、テレビ、FM放送
短波 3MHz~30MHz 電離層で反射するので、小電力で遠方まで届く。 船舶・航空機通信、国際放送、ラジオ
中波 300kHz~3MHz 地表面を伝わる性質、低い山は乗り越える。 船舶・航空機用ビーコン、AMラジオ
長波 30kHz~300kHz 地表では安定しており、温度の影響もすくない。 船舶・航空機用ビーコン、無線航行
超長波 3kHz~30kHz 遠方まで届く、海水への浸透性がよい。 無線航行(オメガ)
超低周波 50Hz 60Hz 波長が長すぎて電磁波としての性質が現われにくい、正確には電磁界という。 高圧送電線、家庭用電気製品
※周波数の表記:kHz(キロヘルツ)=103、MHz(メガヘルツ)=106、GHz(ギガヘルツ)=109、THz(テラヘルツ)=1012
PHz(ペタヘルツ)=1015、EHz(エクサヘルツ)=1018

2-3. 電磁波の単位

上記のとおり電磁波には周波数別に多くの種類があります。従って強度を表す単位についても周波数によって違います。低周波電磁波の場合は電界(V/m)と磁界(A/m)とを分けて考えますが、高周波電磁波の場合は波長が短いために、電界と磁界がが絡み合った状態で進むので、W/m2やW/cm2のように単位面積あたりを通過した電力(電力密度)で表されます。

電界の単位について

電界の強さ(電界強度)を表すときはボルト毎メートル(V/m)またはボルト毎センチメートル(V/cm)という単位を用います。例えば、両者は次のように換算できます。
1キロボルト/メートル(kV/m) = 10ボルト/センチメートル(V/cm)

磁界の単位について

磁界の単位については少々複雑です。SI単位系(国際単位系)では、 磁界の強さの単位としては アンペア毎メートル(A/m)が、 磁束密度の単位としてはテスラ(T)やウェーバ毎平方メートル(Wb/m2)が用いられますが、通常はCGS単位系であるガウスを用いることが一般的です。米国等では現在もガウスを使用しており、電磁波測定器のほとんどもガウスを採用しているのが大きな理由です。
CGS単位 SI単位
ガウス ミリガウス テスラ ミリテスラ マイクロテスラ
1G 1000mG 0.0001T 0.1mT 100μT

高周波電磁波の単位について

高周波電磁波の強さの単位は、電界強度はボルト毎メートル(V/m)、磁界強度はアンペア毎メートル(A/m)の電界と磁界を分けて表すことが出来るのですが、高周波の波長は短いので電界と磁界とが絡み合った状態で空間を進むので、1平方センチメートルや1平方メートル等の単位面積を通過した電力(電力密度)で表されることが多い。
従って、単位はワット毎平方センチメートル(W/cm2)、或いはワット毎平方メートル(W/m2)が用いられる。

ちなみに電力密度、電界強度、磁界強度の換算式は以下のようになります。(空間インピーダンスは約377Ω)
■ 電力密度(mW/cm2 )=[電界強度(V/m)]2 ÷3770=37.7×[磁界強度(A/m)]2

3.電磁波シールドの原理

3-1. シールド可能な周波数について

電磁波のすべての周波数がシールド可能なわけではありません。波長が非常に大きい電磁波(極低周波)は波としての特性が失われており、その場全体に電界と磁界が存在することになります。電界は建物や木、金属などの導電物によってシールド可能ですが、磁界のシールドについては透磁率の高いアモルファスやパーマロイ等の特殊合金が必要になります。最近では磁性材とアルミ箔を多層化させた軽量な新素材もありますが、まだまだ高価な素材になります。
一般的には電磁波シールドはRF(Radio Frequency)と呼ばれる約300Hz~3THzの周波数を対象としています。電磁波シールドの基本は反射させる、吸収させるのいずれかで、それらを組み合わせることによりシールド性能を上げることが出来ます。

3-2. 反射損失

電磁波がシールド材に入射し透過する際にシールド材表面で反射させる。
反射損失イメージ

3-3. 吸収損失

電磁波がシールド材に入射する際にシールド材内部に誘導電流として吸収させる。
吸収損失イメージ

3-4. 多重反射損失

シールド材の内側に浸入した電磁波の一部は反射され材料内を反対向きに伝播する。この反射波を再びシールド材で反射させ、材料内で反射を繰り返すことによりシールド性能を高める。
多重反射損失イメージ

3-5. 電磁波シールド性能の表し方

電磁波シールド性能はデシベル(dB)を使って表します。
電磁波がシールド前とシールド後でどれくらい減衰したかを相対的に表わす単位で、以下の計算式によって導き出されます。
デシベル(dB) = 20log10(E0/E1
E0:シールド材が無い時の電界強度(V/m)
E1:シールド材を透過した電界強度(V/m)
デシベルとシールド率と減衰量の関係は以下のとおりとなります。デシベルで表すと計算が容易で扱いやすくなります。
シールド効果(dB) シールド率 減衰量
-20デシベル 90% 10分の1
-40デシベル 99% 100分の1
-60デシベル 99.9% 1000分の1
-80デシベル 99.99% 10000分の1

3-6. 電磁波シールド材の性能試験方法

電磁波 シールド材の性能を正確に評価するには信頼できる測定方法で試験する必要があります。
試験方法には多くの種類があるが、代表的な方法は社団法人関西電子工業センターが開発した「KEC法」と株式会社アドバンテストが開発した「アドバンテスト法」がある。
性能は試験方法により誤差が生じるので、複数のシールド材の性能を比較する場合は同じ方法で測定しているほうが好ましいと言える。
下図:大阪府立産業技術総合研究所/講習会資料より
KEC法測定 アドバンテスト法

4.電子機器の電磁波シールド

4-1. 回路設計

電子回路の設計段階から電磁波対策を考慮した基盤を設計、開発する。回路設計者のスキルと経験が左右するが、目に見えないノイズを相手にすることから試行錯誤も必要なケースもある。アート電子が運営するノイズ対策.COMは回路設計者のための役立つ情報が網羅されている。

4-2. ノイズ対策部品

ノイズ対策部品はフィルタリング部品とシールディング部品の2つに分けて考えると分かりやす。電磁波ノイズを減衰させる部品をフィルタリング部品、外部に漏れないように、或いは影響を受けないようにする部品やシールド材料をシールディング部品と呼ぶ。

4-2-1. フィルタリング部品

主に基盤に載せる部品となるが、電磁波ノイズを減衰させることのできる部品として以下のものがあげらる。
フェライトコア
フェライトコア フェライトとは、酸化鉄を主成分とするセラミックスのことで強い磁性作用があり、ケーブルを通すことにより高周波ノイズを減少させることができる。 フェライト内に集まった磁気エネルギーは熱に変換されるのでアースは不要。チップ化した小型のフェライトビーズは基盤に搭載できる。ノイズ対策効果は大きい。

主なメーカ:北川工業 / 竹内工業 / トーキン / エレコム / TDK

コンデンサ
コンデンサー 電気を蓄えたり放出したりする電子部品で、ノイズを吸収する機能の他に、電圧を安定させたり、必要な信号を取り出したりする機能もあり、容量や材質により多種、多様なタイプがある。スマートフォンやノートパソコンの中にも数百個のコンデンサが搭載されている。

主なメーカ:太陽誘電 / 村田製作所 / TDK / 京セラ / ニチコン

コモンモードチョークコイル
コモンモードチョークコイル ひとつのコアに、2本の導線を巻くことで電磁誘導現象による磁束を発生させて、ノイズを打ち消し合う。信号とノイズの周波数が重なっていても必要な信号だけを取り出すことが出来る。 コモンモードノイズに対する効果が大きい。

主なメーカ:村田製作所 / アイペック / タムラ製作所 / 東光

4-2-2. シールディング部品

発生する電磁波ノイズを漏れないように、外部から電磁波が入り込まないようにシールドする部品として以下のものがあげられる。
導電テープ
導電テープ 銅やニッケル等の金属めっきを施した布(導電布)や銅箔やアルミ箔等の金属箔をテープ状にしたもので、ケーブルやハーネスに巻いたり、筐体の隙間等の電磁波漏洩対策に使用する。粘着タイプのものは導電性のある粘着剤を使用している。

主なメーカ:3Mジャパン / 日本ジッパーチュービング / 北川工業 / 寺岡製作所

金属メッシュ
金属メッシュ 冷却口等、通気が必要な部分の電磁波シールドをする場合には金属メッシュを使用する。電磁波ノイズの波長は数ミリ程度の網目は通り抜けることは出来ない。金属メッシュを目的の形状に型抜きするハードなものや金属めっきした糸(導電糸)をメッシュ状に編んだ柔軟性のある布状のものもある。

主なメーカ:北川工業 / マックコーポレーション / 太陽金網

シールディングガスケット
シールディングガスケット 復元弾性力性に優れた導電性のポリウレタンフォームを利用して開口部等の隙間を埋めることにより電磁波ノイズの漏れと侵入を防止する。

主なメーカ:森宮電機 / 竹内工業 / 日本ジッパーチュービング

4-3. 筐体の電磁波シールド

上記のとおり「設計段階の対策」、「部品を使って対策」の他に、出来上がった電子機器を丸ごと電磁波シールドのケースで囲ってしまうという手法がある。電子機器のケースのことをハウジングや筐体と呼びます。 金属は電磁波をシールドする(反射させる)ので筐体を金属のように導電化することによってケース内に電磁波を閉じ込めてしまい、且つ外部からの電磁波の影響も減らすことができる。 下の表は電磁波シールドに使われる金属とその性能表です。銀は高性能だが、高価なので銅やニッケルやアルミニウムが使われることが多い。
金属の電磁波シールド材料としての適正表
東京都立工業技術センター「電磁波妨害に対する規制とシールド技術」より
  比重 比導電率(a)
(CU:1.0)
比透磁率(b)
(100MHz)
a/b
※1
a・b
※2
10.5 1.06 1 1.06 1.06
8.9 1.00 1 1.00 1.00
19.3 0.78 1 0.78 0.78
アルミニウム 2.7 0.63 1 0.63 0.63
ニッケル 8.9 0.23 1 0.23 0.23
7.9 0.17 100 0.0017 17
※1:比導電率/比透磁率は電磁波の反射損失の度合い。 この値が大きいほど電磁波の反射損失量が大きい。(シールド性能が高い)
※2:比導電率×比透磁率は電磁波の吸収損失の度合い。 この値が大きいほど電磁波の吸収損失量が大きい。(シールド性能が高い)

4-3-1. 金属製の筐体

金属製の筐体にすればエミッション(不要な電磁波を放出すること)、イミュニティ(外部からの電磁波に耐えること)の点からも最も有効な方法だと言える。 しかし、問題は重量と加工の難しさだ。据え置き型の電子機器であれば重量に関しては問題にならないが、軽量化が求められるモバイル型の電子機器においては、樹脂が使われることが多く、 また一般消費者向けの電子機器筐体ではデザインが重視され、複雑な形状が求められるため金属での加工はコスト面からも難しい。以上のような理由から以下に説明するような樹脂に対して 導電性の表面処理をするケースが多い。

4-3-2. 無電解シールドめっき

上記の表から銀と銅が他の金属に比較して導電率が高く優れた電気伝導性を有することがわかる。銅は銀に比較して安価なうえに無電解めっきも容易であるため電磁波シールド用の無電解めっきとしてもっとも優れている。ただし、銅は大気中で比較的容易に酸化を受け、電磁波シールド効果が低下するという問題がある。この問題を解決するために無電解銅めっきした上にさらに無電解ニッケルめっきを施す。無電解ニッケルめっき皮膜は銅の酸化を防ぎ耐摩耗性も高める。またさらに仕上げ用の塗装をする場合は塗装下地としても優れている。
工程例:1.素材受け入れ・検査→2.脱脂→ 3.活性化処理→ 4.無電解銅めっき→ 5.触媒付与→ 6.無電解ニッケルめっき→ 7.純水洗浄→ 8.乾燥
主要メーカー:エビナ電化工業、日東社、帝国技研、太洋工作所、吉野電化工業

4-3-3. 真空蒸着

高真空状態で蒸着材料(アルミニウム、銅、ニッケル等)を加熱蒸発させ、気体分子となった蒸着材料が対象物表面に付着することによって、蒸着薄膜が形成されるめっき加工技術。
工程例: 1.素材受け入れ・検査→ 2.除電エアーブロー→  3.アンダーコート→  4.乾燥→  5.真空蒸着→  6.トップコート→  7.乾燥
主要メーカー:上村工業、CBC、日東社

4-3-4. 導電性塗料

銀、銅、ニッケル等の金属を微粒子、粉末状にして塗料に含ませることにより塗膜表面を導体化する塗料。国内では藤倉化成のドータイトシリーズが有名。膜厚を均等にするためにエアガンを使用して塗布する場合が多いが、液状で筆塗りも可能なため、試作品等の少量生産の場合はローコストで電磁波対策が可能になる。簡単なスプレー缶タイプもある。

4-3-5. 導電性繊維(金属繊維)

最も簡単な方法は導電性の布で筐体全体を被覆する方法がある。導電性繊維とは布地に金属めっきを施したしたもので、柔軟性があるので通常の布と同様に取り扱うことができる。繊維がもつ「軽量、柔軟性」と、金属がもつ「導電性、電磁波シールド性」の特性を併せ持った素材であり、対象物を包み込むことで筐体全体を導体化したのと同じ効果が期待できる。透視性や通気性を確保するためにメッシュ状のものもある。

5.建築物の電磁波シールド

建築物の電磁波対策に関しても電子機器のノイズ対策と同様に電磁波を中に入れない(侵入対策)、外に出さない(漏洩対策)ことが重要だ。侵入電磁波によるコンピュータの誤作動やデータの破損。漏洩電磁波による社内の機密情報等の漏洩防止の対策をする必要がある。外部からの侵入電磁波としては電動機、溶接機、工事器械、違法CB無線、自動車、電車、レーザー、放送局、雷などが想定される。(新たな脅威として某国からの電磁パルス攻撃への対策も増えてしまった)

当然、シールド性能とコストは比例するので、予算によってシールドレベルがある程度は決まることになる。また、業種や機密度のレベルによってどの程度の性能が必要になるのかも変わってくる。
ここでは電磁波シールドビルの建設を得意とする清水建設の資料を元にシールド性能レベルの違いを「簡易シールド」、「一般シールド」、「高性能シールド」の3種類で見ていくこととする。加えて電磁波シールド建材を扱っている企業も掲載する。
※シールド性能の単位dB(デシベル)についての詳細は「3-5. 電磁波シールド性能の表し方」を参照。

[関連ページ] 建物の電磁波対策については専用ページを設けております。

5-1. 簡易シールド

・ シールド性能:20dB程度(約1/10に減衰)
・ シールドというよりは安全なレベルまで減衰させて、リスクを低減するといった考え方。携帯電話は使用できるレベル。既存の建物をシールドする場合は床、壁、天井、窓、ドアを対策したとしてもこの程度までの減衰となる場合が多い。
・ 対象:一般オフィス、住宅

5-2. 一般シールド

・ シールド性能:30dB程度(約1/32に減衰)
・ 一般オフィスよりは重要なデータや機密情報を扱う建物や部屋が対象となる。既存の建物を30dB程度までシールドするのは難しく、設計段階から電磁波シールドを考慮したデザイン設計とシールド材料や建材を利用する。ワイヤレスマイクの混信防止を目的として劇場やホールも30dB程度のシールドは必要。携帯電話の使用は厳しく、出力アップ機能が働いて携帯電話の電池の消耗が早くなる場合も。
・ 対象:データセンター、コンピュータ室、研究・開発施設、役員室、金融機関、放送局・劇場

5-3. 高性能シールド

・ シールド性能:40dB以上(約1/100に減衰)
・ 莫大な建築費用が必要となる。今まで想定していなかった某国からの電磁パルス攻撃にも耐えうる必要が出てきたので、今後はさらに高性能な電磁波シールドが必要になることも想定される。米国ではホワイトハウスやFBIのビルなどは相当高性能シールドを施していると言われている。
・ 対象:病院のMRI室・脳波室、高官庁施設、研究施設、国家の最高レベルの機密情報を扱う建物

5-4. 電磁波シールド建材取り扱い企業

下のイラストはオフィスの電磁波シールドのイメージイラストです。
シールド空間を実現するには下記のようなトータル施工が必要になります。
オフィスの電磁波シールドイメージ
1 天井:シールド壁紙、アルミシート、電磁波吸収パネル
1 壁:電磁波シールド壁紙(新設の場合は電磁波シールド石膏ボード)
1 窓:シールドガラス、シールドフィルム、シールドカーテン、シールドロールスクリーン
1 扉:シールドドア、鉄製ドア
1 床:シールドシート設置(新設の場合は床スラブにシールド鋼板等敷き込み)
1 家具:電磁波吸収パーテーション、電磁波吸収テーブル

電磁波シールド建材のを取り扱い企業の一部を以下にあげる。
材料の選定は電磁波シールド性能の他に耐久性や不燃性などの特性も重要。また、切断や接合の施工の容易さも考慮すべきである。

企業名:日本板硝子環境アメニティ
商品名:電磁波シールドルーム「マグセーバー」

企業名:マックコーポレーション
商品名:低周波磁界シールド「EMSパネル」窓用フィルム「電磁波シールドフィルム」

企業名:豊和工業
商品名:電磁波シールドドア「エムブロック」

6.人体の電磁波シールド

電磁波が人体に与える影響の有無については賛否両論あるが、ここではひとまずその議論は置いといて、人体を電磁波からシールドする方法を考察する。

6-1. 電磁波防止エプロン

オフィスのパソコンやコピー機や電子機器からの電磁波対策という意味でOAエプロンとも言います。金属めっきした生地(導電繊維)をエプロンに取り付けたり、エプロン自体に導電繊維を使って縫製している製品もあります。

「電磁波カット率99.9%」などとうたってはいますが、それはあくまでも使用しているシールド生地を単体で測定したデータ(測定値)なので、着用した状態で99.9%カットしているわけではありません。
理由は電磁波は回折現象といって、シールド材の横から回り込んでその背後に回り込んでしまうからです。また、対応している周波数も問題です。 「2.電磁波の基礎知識」で説明したとおり、電磁波は周波数によって特性が違います。電磁波エプロンはすべての周波数を対象としているわけではなく、 ほとんどが高周波のマイクロ波と低周波の電界のみを対象としています。(導電繊維では無く磁性材を利用すれば低周波の磁界にも対応します)
以上のこと考慮すると重要なのは以下の3点です。

6-1-1. 測定機関のデータグラフが表示されていること。

KEC法グラフ横軸に周波数、縦軸にシールド率を表示した性能グラフを確認すれば使用しているシールド材の性能が判断できます。 広い周波数域に於いて最低でも30~40dB以上の性能を保持していなければなりません。 しかし、注意しなければならないのは、海外製品の中には虚偽のシールドデータを掲載している商品もあるようです。日本ではKEC法やアドバンテスト法等の信用のある測定機関でのデータであることも必ず確認してください。 測定方法については「3-6. 電磁波シールド材の性能試験方法」を参照

6-1-2. データは目安にしかならない

電磁波はシールド材の裏側に回り込みます。測定データはシールド材を単体でテストした場合の測定値なので実際に着用した時のシールド性能を保証しているわけではありません。

6-1-3. デザイン(形状)が重要

回り込みの電磁波を無くすには、背中まで対策しなければなりません。後ろ側に回り込む電磁波を考慮した形状のエプロンが理想ですが、ほとんどの製品は前面のみを対象としたデザインになっています。 電磁波シールド素材で前面のみをおおった場合は、電磁波が横から回り込んでしまいます(回折現象)。しかし、体の周囲をおおい、体が円筒形の中に入るイメージで肌に密着させると、 その中の空間に電磁波(高周波)は進入できずに効果的に電磁波から体を防ぐことが可能になります。電磁波カットはシールド性能もさることながら、着用時に体に密着させるデザインになっていることも重要です。
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6-2. 電磁波シールド衣類

電磁波回り込みのイメージ上のエプロンでも説明したとおり、電磁波はシールド材の背後に回り込みます。そのことを考えた場合は体に着用する衣類のほうがシールド性能は優れているということになります。 しかしシールドに使用している導電繊維は金属をめっきした布を使用しているので、直接肌に触れる場合には金属アレルギーの心配があります。 特に銅やニッケルを使用している場合は金属アレルギーを起こす懸念が高くなります。

6-2-1. めっきしている金属の確認

布や糸にめっきしやすい金属はニッケルや銅なのですが、どちらもアレルギーを起こしやすい金属です。ニッケルや銅を使用している場合は肌に直接触れないようにしたほうが良いでしょう。 アレルギーを起こしにくい金属は銀(シルバー)やチタンです。銀繊維やチタン繊維もありますが、チタン繊維を使用した衣類は販売されていないようですので銀繊維を使った衣類が最適と言えます。 若干、高価格にはなりますが安心して着用することができるでしょう。

6-2-2. デザイン(形状)

エプロンの場合と同様、電磁波シールドにはデザイン(形状)も重要です。できるだけ体に密着させたデザインで、尚且つできるだけ広い面積をカバーするのが理想ですが、 アウタータイプの場合は好みのファッションとの兼ね合いもあります。体に密着させるという意味からも下着タイプの方が良いかも知れません。

6-3. 就寝時

人体の電磁波対策として最後に人生の3分の1を過ごす就寝時の対策について考えてみたいと思います。
電磁波シールドの原則は電磁波発生源から距離をとることと、可能な限り電磁波シールド材と人体との間に隙間をつくらない状態にすることです。となれば敷布団側、掛ふとん側それぞれに導電繊維等の柔軟性のある素材で体を挟み込むようにすれば布団内に入り込む電磁波は相当に減衰するものと考えられます。 (もちろん布団から出てる頭部にはシールド効果はありません。)
電磁波シールドの趣旨からは外れますが、もっと基本的なことは寝室には電磁波発生源は置かない、就寝時には携帯電話やスマートフォンは近くに置かないことを注意すれば良いと思います。
 

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